Honda Silicon Valley Lab Senior Program Director
杉本 直樹Naoki Sugimoto
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Drivemode CEO
古賀 洋吉Koga Yokichi

<モデレーター>
スタンフォード大学アジア太平洋研究所 リサーチアソシエート
櫛田 健児Kenji Kushida
今回は2016年10月開催のイベント「Silicon Valley - New Japan Summit」 から、日本企業とシリコンバレーのスタートアップによるパネルディスカッションの内容をお届けする。第一弾はホンダとDrivemodeのコラボレーション事例「Driving Open Innovation in the Automobile Industry」。両社の取組みとその経緯を紹介しながら、日本企業のオープンイノベーションにおける特有の課題、解決の方向性を探った。

杉本 直樹(すぎもと なおき)
1984年東京大学卒、1994年UCバークレーでMBA取得。リクルートを経て、2005年にHonda Research Institute USAに入社。2011年よりHonda Silicon Valley LabのSenior Program Directorに就任。

Honda Silicon Valley Lab
古賀 洋吉(こが ようきち)
2008年ハーバード大学でMBA取得。ボストンの大手ベンチャーキャピタルGlobespan Capital Partnersのディレクターとして1000億円強を運用する傍ら、Zipcarの海外戦略担当顧問を兼任。日本ではアクセンチュアにて戦略コンサルタント、Altovision(Experianより買収)の設立にエンジニアとして関与。2013年にDrivemodeを創業しCEO兼チーフプロダクトデザイナーに就任。

Drivemode
https://drivemode.com/
櫛田 健児(くしだ けんじ)
2001年スタンフォード大学経済学部東アジア研究学部卒業、2003年スタンフォード大学東アジア研究部修士課程修了、2010年カリフォルニア大学バークレー校政治学部博士課程修了。現在はスタンフォード大学アジア太平洋研究所リサーチアソシエート、「Stanford Silicon Valley - New Japan Project」のプロジェクトリーダーを務める。著書に『シリコンバレー発 アルゴリズム革命の衝撃』がある。

Stanford Silicon Valley - New Japan Project
http://www.stanford-svnj.org/

CVCからラボへ変革したホンダ

櫛田:このセッションでは、シリコンバレーで日本企業がどうすればスタートアップとのコラボレーションに成功するかを探っていきます。まずそれぞれの企業に紹介していただきましょう。最初にホンダの杉本さん、お願いします。

杉本:杉本直樹と申します。ホンダシリコンバレーラボの責任者を務めています。私は日本人ですが、シリコンバレーに22年住んでいまして、ちょっとアメリカナイズされているかもしれませんね。ホンダシリコンバレーラボでは、将来的に商品、サービスを変革するためのオープンイノベーションを追求しています。規模は小さくともすぐれたスタートアップたちやアップルやグーグルのような大企業など、シリコンバレーのイノベーターたちとコラボレーションしています。

 私たちは2000年からシリコンバレーで16年活動をしてきました。当初はコンピューターサイエンスにフォーカスした小さな先進的な研究所を設立し、スタンフォードやUCバークレーといった大学組織と共同で研究を行いました。その後、2003年から2005年ごろにコーポレートベンチャーキャピタル(CVC)を始めました。私自身は2005年からこのホンダのベンチャーキャピタルに参画しました。

 コーポレートベンチャーキャピタルを立ち上げた目的は、シリコンバレーのコミュニティに入ること。ご存知の通り、シリコンバレーはベンチャーキャピタルのお金と夢によって動かされています。私たちはそのエコシステムの一部になりたかったのです。私たちは「ベンチャーキャピタル」という帽子をかぶって、シリコンバレーのコミュニティに行き、小さなスタートアップと一緒に働き始めました。実際にいくつもの共同研究、共同開発を行い、ホンダのR&Dに役立つような素晴らしい成果を出すことができました。

 そして2011年、私たちは将来を見据えてチームをさらに変革することにしました。それは「オープンイノベーションラボ」という形にです。シリコンバレーのスタートアップやイノベーターと一緒にブレーンストーミングをし、一緒にプロトタイプを作り、一緒に価値を証明する。そういった活動をしようと考えたのです。

 私たちは日本のホンダのエンジニアを何名かシリコンバレーに移し、現地のスタッフも採用してチームを作りました。そしてシリコンバレーのイノベーターたちを私たちのラボに招いて、一緒に働くようになりました。それから6年が経ち、私たちはアップルやグーグルとも連携し、スマートフォンを車につなぐ新しいテクノロジーを開発しました。また、様々なスタートアップと仕事をしてきました。そのスタートアップの一つがDrivemodeさんですね。

櫛田:今の杉本さんのお話には、重要なテーマが含まれていますね。CVCとして始めたが、スタートアップとコラボレーションするためにオープンな形にしたと。もしスタートアップと協働してエンジニアやプロトタイプのリソースも提供するのであれば、できあがったものを自社のみの独占的なものしようと考える大企業がほとんどですが、そこをあえてオープンにして、実質的には共同開発したものを第三者に売ってもいいというは素晴らしいと思います。良いものは共同開発したので自社の方が断然早く市場に出せるという計算ですよね。ぜひとも広く知れ渡ってほしいスタンスです。つづいて古賀さん、Drivemodeの紹介をお願いします。

ドライブ体験を好きなようにデザインできる「Drivemode」

古賀:まず私たちが誰でどんなことをしているのか、ご紹介したいと思います。私たちは、皆さんがたとえ高級な車を持っていなかったとしても、新しいテクノロジーを使って、最先端のドライブ体験を実現できるようにしています。私たちの活動は、雑誌の『Time』に「どうやって平凡な車を賢くするか」という風に取り上げられました。またWebメディアの『Business Insider』にも「古い車を完全なコネクテッドカーにする」と掲載されました。そういった記事が、私たちの活動をよく言い表してくれています。

 私自身は、3年前にボストンからベイエリアに来ました。それまで私はカーシェアリングのスタートアップであるZipcarの国際戦略部門を率いつつ、Globe Span Capitalの投資家もしていました。Globe Span Capitalはボストンにある、ファンド規模10億ドル超のTech関係のベンチャーキャピタルです。

 ボストンからベイエリアに移る際、私は通勤用の車を買ったのですが、その際に2000ドルのカーナビもあわせて購入しました。ただ、そのカーナビは使ってみると、相当時代遅れなものに感じました。まるで80年代のコンピューターのようでした。20万円もの費用をかけて、なんて馬鹿なものを買ってしまったんだ、と思いましたね。人生で一番の失敗だと思ったくらいです。

 ナビゲーションのシステムや音楽のアプリはスマートフォンに入っています。ですから自然と運転中にスマートフォンを使うようになります。ですが、問題は運転中にスマートフォンのインターフェイスはまったく運転中の使用に最適化されていないということです。

 私は思ったんです。今や誰もがどこでも運転中にスマートフォンを使っている。ならば、スマートフォンのインターフェイスを変えて、安全性を保ちながら運転中に利用できるものにしたらどうかと。これが私たちのやっていることです。今はAndroid版のみリリースされており、iPhone版もリリースするつもりです。

 Drivemodeでは、運転中でも安全にスワイプやタップだけで様々なアプリを使うことができます。もちろん安全性についても全く問題なく、運転手は操作する際に道路から目を離す必要はありません。地図のナビを使ったり音楽を聞いたり、メッセージを返したりすることができます。アプリはもちろんのこと、パーキングサービス、予約サービス、食べものを買ったり、そういった機能も備え付けることができます。IoTデバイスなども入れることができます。ユーザーが好きなアイテムやデバイスを後から買って備え付けて、自分のドライブ体験を好きなようにデザインできるのです。

 ここにおもちゃの車があります。私はこの車をウォルマートで200ドルで買い、さまざまなアプリやカメラ、コントローラーなどを備え付けました。この車はメッセージ機能やグーグルマップなどの日常で使うすべての機能を備えています。このおもちゃの車をどうやって作ったかというと、仕事の後、ガレージに集まって、パナソニックやホンダの人が集まって、すごく真剣に夢中になって作りました。もちろん残業代が出るわけでもないし、何らかの成果報酬が出るわけでもありません。ただ単に楽しむためだけに、よくわからないおもちゃを改造するというプロジェクトをしていました。有名な大企業の人たちとこのようなバカバカしいことをしていたというのは、いい思い出です。

 そこから、現実にある車もこのように改造できないかと真剣に考え実行してみました。このおもちゃの車から得られた理論に則って、ホンダの本物の車を改造してみたのです。この改造した車には6つのデバイスが備え付けられています。ハンドルに付いたスイッチでリアルタイムにサイドビューカメラ、バックカメラを使うことができ、その全てがつながっています。いま専門的な技術や大きな費用をかけず、どうすれば皆さんの車に取り入れられるか考えているところです。

なぜホンダはスタートアップと提携したか

櫛田:ありがとうございます。古賀さんのような面白いスタートアップのプレゼンテーションを聞いて非常に感銘を受ける大企業は多いと思いますが、 その先のステップとは、実際にスタートアップとコラボレーションして、一緒に世界を変えるということです。そこが難しいんですよね。杉本さん、ホンダはDrivemodeとどのようにコラボレーションしたのでしょうか。

杉本:私はもともと古賀さんのことは随分前から知っていました。古賀さんがベンチャーキャピタルにいた頃からの知り合いなんです。その後、古賀さんが始めたスタートアップのアイデアを聞いて、素晴らしいと思いました。スマートフォンで全てができる、スマートフォンで十分、工場で作っているカーナビなんていらない、と。まさにその通りだと思いました。

 とても重要なことなのですが、最近多くのユーザーはホンダを買いたいと思っていないんですよね。すでに私たちはこのゲームに負けていて、失うものは何もない。だから私たちはDrivemodeと組んだんです。

 最初に一緒にブレーンストーミングをしたのですが、古賀さんのアイデアは完璧でとても素晴らしかった。わかった、このアイデアで十分だから、あとは私たちは具体的に何をすべきなのだろうと考えました。そこで、私たちは車を作ることに固執せずに、車の作りをシンプルにして、ユーザーのスマートフォンで車載情報システムを操作できるようにすると決めました。このアイデアはとても面白かった。われわれのチーム全員、このアイデアが好きでした。また、このアイデアを実現するにあたって、パナソニックさんも一緒になってサポートしてくれました。

「5年以内の実現」では遅すぎる

櫛田:一見、たやすく実行しているように聞こえるかもしれませんが、実際はそうではありませんよね。スタートアップと大企業がコラボレーションする際、障壁となるのはスピードとオープンネスです。「いいアイデアだ、5年以内に実現しましょう」では遅すぎる。5年もスタートアップが待っていたら生き延びられません。杉本さんのように、いいアイデアだからやろうとなっても、日本本社では内部で決めた規格があるので、簡単には実行できない。社内の規格を揺るがすような革新的なアイデアはマネジメントするのが難しい。今回のケースでは、どのように日本本社との調整を図り、スピード感とオープンネスの障害を乗り越えていったのでしょうか。

古賀:私はアメリカの就業経験のほうが長いのですが、日本人ですので、日本企業の考え方はよくわかっています。杉本さんとお会いしたときは、実現には5年くらいかかるのだろうと思っていました。しかし、杉本さんにオフィスに招待されて、こう言われました。「なぜ2ヶ月で作れないのか。ぜひ2ヶ月で見せてくれ」と。パナソニックさんもその場にいたのですが、その話を聞いて、混乱です。それはそうですよね。私たちはまだ何も契約も交わしていない状況です。それなのに、ここから1ヶ月で計画を作り、1ヶ月で車を作る? 本気ですか? と。私たちは「そんな時間もリソースもないですよ」と言ったところ、杉本さんは「パナソニックさんが助けてくれるよ」と。そしてホンダさんも自社から3人ものエンジニアを割り当ててくれました。

 最初、そのスピード感はかなり厳しいというイメージを持っていました。私たちのアプリは社内政治的な部分での影響を受けやすく、100個のダメな理由付けをされて結局実行されない領域だからです。でも杉本さんは「現実的にフィードバックができるような仕組みを作ればできるでしょう」と言ってくれました。

 スタートアップが5年かかるプロジェクトをやると言ったら、鼻で笑われますし、そんな商品は誰も買ってくれません。でもこのプロジェクトはわずか2ヶ月で終わって、私たちにとってたいへん有意義なものとなりました。テレビなどのメディアもたくさん取材してくれて、私たちがいかにイノベーティブな取り組みをしているかを効果的にPRすることができました。多くのメディアは「Drivemodeが実現した」ではなく、「ホンダがDrivemodeと実現した」と伝えます。これは正直、ホンダにとってリスキーなことですが、ホンダは私たちのビジネスを社会に出すことに対して、とても大きな手助けをしてくれました。本当に感謝しています。もちろんパナソニックからのサポートも本当に大きな助けになりました。

杉本:“スピード”という話は、私たちがCVCからオープンイノベーションラボに変化させた決断にも大きく関わっているんです。CVCだったころも、私たちはシリコンバレーの価値あるイノベーターと日本をつなげたいと考えていました。しかし、日米間の物理的な距離、言葉の壁、時差、旅費などの課題がありました。日本にいる人たちは「既存のプロジェクトで忙しくて、シリコンバレーには行けない」と言い訳をします。CVCだったころ、私たちは多くの素晴らしいビジネスチャンスがありましたが、日本側のスピード感のなさのためにそれらのチャンスを失い、苛立ちを覚えていました。

 5年間、CVCをするなかで多くのことを話し合い、そして私たちはチームを「CVC」から「ラボ」に変革することを決めました。エンジニアを採用したことは、Drivemodeとスピード感を持って一緒にプロジェクトを進める上で大いに役立ちましたね。それはまさにシリコンバレーのスピード感であり、自動車メーカーのスピード感ではありません。新しい車を作るのに5年かかるようなスピード感ではないんです。それは非常に大きく重要な決断だったと思っています。

NDAは1ページで十分

櫛田:オープンネスについてはどうでしょうか。たとえば両社でミーティングをする場合、ホンダの法務部門としてはノンディスクロージャーアグリーメント(NDA)を必要としますよね。その文書は東京に送らないといけないわけですよね。それらの手続きはビジネスを止める要因になりがちですが、そういったものにはどのように対処してきたのですか?

古賀:実際に起きたことをお話ししますね。シリコンバレーでビジネスをする際、NDAを見れば、どれだけ相手がシリコンバレーを知っているかがわかります。あらゆる日本企業は見てくれを重視しがちです。日本企業の法務部門がいかに優秀かをNDAを通じて伝えようとするのです。でも、シリコンバレーではそれをやめてください。シンプルにお互いにわかりやすいようにつくってほしいのです。私たちはNDAを1ページでしか作りません。リスクはNDAの内容からは発生しません。リスクはそれ以外のところで発生します。ですから私たちはNDAに多くの時間をかけません。それが私たちのスタンスですし、シリコンバレーの他のスタートアップももちろんそうです。私たちはシンプルな書式のNDAを杉本さんに送りました。杉本さんは「おお、いいね」と言ってくださったのですが、ホンダさんの法務部門の方がとても多くの書類を送ってきました。

杉本:たしか6ページくらいのNDAでしたね。

古賀:さらに2億円くらいの保険の加入も勧められました。私は思いましたよ。「私たちはわずか8人のスタートアップ。それなのに私たちが2億円の保険に入ると思っているのだろうか。私たちのことを理解していただけているのだろうか」と。2億円の保険を用意することは、大手企業からスタートアップへの支援の一般的な形かと言うとそうではありません。

 まずホンダさんをDrivemodeのオフィスに招き、スタートアップの現実を共有したうえで、なぜホンダにとってこの事業提携が重要なのかと理解していただくことから始めました。本来、法務部門は既存の技術を守ることを目的としており、それを揺るがすような革新的な技術を外部から取り入れることを良しとはしていません。しかし、ホンダさんはそこから変革して、私たちとともに事業を進めていきました。

杉本:このDrivemodeさんとの提携の契約書は、北アメリカでの提携契約書のテンプレートの形を変え、新たなテンプレートとなりました。この契約によってホンダはDrivemodeさんを法律的にも「パートナー」とすることができました。ただ、そのテンプレートが確立するまで、ホンダはDrivemodeさんのことを「パートナー」とは言わず、「ベンダー」と呼んでいましたね。

古賀:やりとりのメールのタイトルも「ベンダーネゴシエーション」でしたね。(笑)

杉本:いや、もはやあれは「ベンダー登録」。つまり、ここにとりあえずサインしろ!からのスタートでしたね。そんな状態から今のテンプレートを確立することができたのは、本当に良かったと思っています。

日本のCVCが失敗する原因

櫛田:それはとても重要なテーマですね。なぜならシリコンバレーの論理というものは、他の地域とは全く違うものです。そのシリコンバレーの論理に則った上で、2つの過程を同時に踏まなくてはいけません。まず提携したスタートアップの企業文化を受け入れること、そして同時にどれだけシリコンバレーの文化が日本と違うのかを理解し、その違いから法律面などのやり方も変えることを納得させなくてはいけません。つまり、このように同時並行で国内外における「学び」のプロセスが進行していくわけです。 それでは、実際のそのようなプロセスを進行させる際、ホンダさんはどのように環境を整備したのでしょうか。CVCを始めた段階ですでに環境自体は整っていたのですか。それとも、CVCをやる中でコンフリクトを繰り返しながら整えていったのでしょうか?

杉本:CVCだったころはすべての投資案件に対して本社の承認が必要でしたし、とても時間がかかりました。コロコロ人事が変わり、シリコンバレーのことをまるでなにもわかっていない新しい担当者が私たちのところへ来て、教育から何から何までをゼロからスタートするような状況でしたね。

 もう私たちは疲れてしまいました。そこで思ったのです。「そもそもエクイティ投資をする必要があるのか」とね。そして「実は投資する必要はないんじゃないか」と思い至りました。Drivemodeさんと仕事する中でも、さして投資の必要もなく円滑にプロジェクトを進められたと思います。

 私自身、昔から日本企業がシリコンバレーに駐在員を出入りさせるのをみていますが、これがCVCが失敗する原因だと考えています。これはつまるところ、東京とシリコンバレーの人たちとの間で知識量に偏りが出過ぎてしまっているのです。これにより、派遣される側、それを管理する人間、その上に立つ人間などすべての人たちが、どんなにお金を投資しても結果が出ないことで疲弊し、ストレスが溜まってしまうのです。私はそれが、CVCがダメになる一番の原因だと考えています。

 だから、私たちはそもそもの仕組みを変えたのです。幸運なことに、CVCからラボに変わってからも、ホンダはこの地に残ることを許してくれました。願わくば、今後はより日本とシリコンバレーどちらのことも良く理解している人間をもっと登用していきたいですね。

スタートアップ提携のメリットは「タイムアドバンテージ」

櫛田:今後どのようにシリコンバレー的なスピード感のあるビジネスをスケールしていくのかが問われていくと思います。お二人にお聞きしたいのですが、今後どのように「大手企業×スタートアップ」という関係性をスケールさせていけばよいと思いますか?

古賀:アメリカのスタートアップに向けて、この質問にお答えします。スタートアップで働くアメリカ人は、日本人女性と付き合うことがあります。その際、日本人女性は付き合う条件として、最初に「どれだけお付き合いにコミットできるか」を挙げることがよくあります。これはアメリカ人とは全く違います。アメリカ人はまず付き合い、その後お互いにとってどんな形が一番よいのか考えます。何が言いたいかというと、私は、日本の大手企業と日本の女性はとても近いと思っていて、まずコミットメントが先に来て、それを前提に話を進めていきます。そのため“お付き合い”に至るのに、多くの時間を要するわけです。もちろん、これは誰が悪いという話ではありません。ただ、その中で気をつけなくてはいけないのは、日本企業の「パートナーシップ」についての見方は、米国企業とは全く違う見方をされるということと、そして日本企業は決して意地悪でこのような数多くのコミットメントを要求しているわけではないということです。彼らは真剣にスタートアップのことをサポートしたいと考えているのです。

杉本:ホンダとDrivemodeさんの契約においては、Drivemodeさんは商品を好きなように他の企業に販売することができます。もちろん、長い時間を一緒に過ごしてきているわけですから、他社よりもアドバンテージがあることはわかっています。私たちは彼らの技術を一番に紹介できる立場だと思います。このことから言いますと、「タイムアドバンテージ」のみがスタートアップと提携するにあたり、持つことのできるバリューだと私は考えています。このような考え方を本社に理解させることは必要不可欠です。そもそもの仕組みの違いを理解してもらうのです。

 日本では大手企業は市場の多くを占有し、リソースも多く持っているため、好きなことができるでしょう。しかし、シリコンバレーではDrivemodeさんのような、リソースはないけれど、ほとんどの日本の大手企業が持っていない革新的な技術やアイデア、そしてスピード感のあるスタートアップがいます。つまり、そのようなスタートアップから「スピード感を含めた多くのことを学べる」というだけで日系大手にとっては大きな機会となるのです。それを踏まえた上での私からのアドバイスですが、あなたの会社の社長や幹部をこちらへ連れてきて、Drivemodeのような革新的なスタートアップと多くのミーティングをしてみてください。きっと彼らも目が覚めると思いますよ。



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